有名な「狸猫換太子」の故事からとった、包公劇。高立監督、凌波出演と黄梅調の王道・・・と思いきや包公劇の色が強く、歌は少なめ。やたらめったら歌っている他の黄梅調とは違いますが、20年来の冤罪、死者も出ているとなると、その悔しさを歌ったシーンは迫力満点。
むしろ黄梅調の歌が効果的にきいている印象がありました。ただ、節によっては黄梅調の朗らかさが出てしまい、なんか合ってないところもあり。井淼のドーラン顔と、リンポーの憤怒のジャケットで、見る前は期待0だったのが意外に面白かった。
・・・あらすじ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
宋の時代、清廉な裁判官で有名な包公の行列に、ある男が割り込む。彼は自分の母が包公に冤罪を晴らしてほしいと伝え、包公はぼろ屋で夫人と対面、彼女が先帝の李妃であると知らされる。20年前、先帝にはまだ王子がおらず、李妃が懐妊。ライバルの劉妃は自らも妊娠したとうそをつき、先帝は先に王子を産んだほうを皇后にと言い出す。そこで劉妃は李妃の子をかすめ自分の子とし、ゆりかごには狸(?)の死体を残す。李妃は化け物を産んだとされ降格、さいごは縊死(実は替え玉を使って宮廷から逃げ、20年後の訴えとあいなる)。すり替えに加担させられた劉妃の侍女、冠珠も自殺。すべてを知った包公は今上帝に訴え、陰謀の執行役であった宦官の郭槐を宮廷の監獄に収容、その夜、侍女が扮した冠珠の幽霊に脅かされ、罪を自白。母后(劉妃)は自害、李妃は新しい母后として今上帝と親子の対面を果たす。
・・登場人物、キャスト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
包公...井淼
ご存知、戯曲のスーパースター、冥界でも裁判官を勤める公正なお役人。市井にまぎれた李妃の訴えを聞き、皇帝に上奏。20年前の後宮争いなんて踏みたくない地雷系の案件にも関わらずガンガンせめてゆき、見事、真相究明・冤罪をはらす。さすがのドーラン真っ黒メイク(包公は地黒で、かつ戯曲では隈取も多いから)で、他の人から浮いてた。普段は脇役の井淼がここでは主役。
李妃(欧陽莎菲)
先帝の寵姫で初めて王子を産むが、ライバル劉妃の讒言で化け物を生んだ罪を被せられ冷宮に追いやられる。劉妃に毒殺されかけたところ、替え玉の侍女が縊死し冷宮は燃やされる。その騒ぎにじょうじて市井に逃れ20年。泣き疲れで失明し、息子(実子なのか?)を包公の行列へ割り込ませ真相究明を頼む。はじめ可哀想と思ったけど、ラスト、自信満々で新母后としてあらわれた姿はいけすなかった笑。
劉妃/母后(高宝樹)
先帝の寵姫で、李妃のライバル。李妃の懐妊に張り合って自身も妊娠したと偽り、李妃の息子を掠め取り自分が産んだことにして、李妃の産屋には狸(?)の死体を置かせた。のち皇后となり、息子の即位後は皇太子の母として君臨、息子が今上帝となってからは母后として暮らしていたが、包公の裁判で過去の悪行が露見、死を賜り白絹で縊死する。
先帝/今上帝(金峰、二役)
黄梅調スターの金峰の二役。ちょっと頼りないけどまじめな皇帝役を好演。先帝は「先に男子を産んだほうを皇后に」とわざわざ災厄の種をまく思慮の浅いおやじで、今上帝は若いからか訴えを聞きすぐに母后に真相を尋ねる直情(そしてちょっとバカ)な青年。金峰ってまじめだけどちょっと足らない青年が似合う。
冠珠....凌波
劉妃の侍女で、李妃の息子のすり替えと毒殺をまかされるが、その善良さから息子は宦官の陳琳にまかせて逃がし、李妃の毒殺にも失敗。ことの露見を恐れた劉妃から責められ、郭槐の加担もあって自殺に追い込まれる。のち、郭槐が投獄されたときは、幽霊となって復讐する。リンポーだけに群舞はあるわすり替えで悩むシーンの歌はねちっこいわ、クレジットで扱いが大きいのも納得。
郭槐
劉妃づきの宦官で、すり替え&李妃毒殺を劉妃からまかされる。実行を侍女の冠珠にまかせるが、彼女がすべて失敗したため、劉妃とともに冠珠を自殺へ追い込む。20年後、李妃の冤罪が取り上げられると真っ先に拷問・投獄され、冠珠の幽霊(実は生きている侍女の扮装)に脅かされ、冥界でも包公に裁かれて死罪となる。投獄中に自身の棺材が運びこまれる姿は哀れ。
陳琳
李妃づきの宦官だった。冠珠に頼まれ李妃を逃がす。20年後、冤罪がはれた時は郭槐への積年の恨みからかなり張り切る。こんな秘密抱えて20年後宮づとめ、つらそう。
冠珠に扮する侍女...李菁
ゲスト出演。郭槐を白状させるため仕組まれた芝居で、死んだ冠珠に扮し脅かす。このころから李菁は幽霊役がはまっている(『連鎖』、『倩女還魂』などで幽霊役が多い気がする)。
太師...田豊
ショウブラ黄梅調・古装でおなじみガリガリで髭の印象的なおじさん。包公の訴えを封じ込めようと皇帝に進言するが、入れられない。出番はそれくらい。
包興
包公の側近。はじめ李妃の訴えが道中もたらされたときは、どちらかというと取り上げるより無視して早く京に戻りたいみたいだった。包公の清廉ぶりを強調さすための脇役さん。
・・演員、監督プロフィール紹介・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【高宝樹】
1932年生まれの江蘇人。話劇出身で同じく話劇俳優の姜南は夫。1951年香港映画ではじめ、声優も経験。製作にも加わり岳楓監督の副監督を務めたり、彼女が指導した何莉莉主演『鳳飛飛』もあり。1971年にはショウブラを離れ、二人目の夫である柏文伯と映画会社「宝樹電影公司」をおこし製作、導演、演員として活躍。80年代にはほぼ引退。ショウブラでは『玉堂春』(1962)、『楊乃武与小白菜』(1962)、『鳳還巣』(1962)、『女巡按』(1966)に参加。
【金峰】
本名:方鋭、広東潮州人で、香港の名ヘアメイク方圓の息子。重慶大学卒業後、舞台に立ち始め、沈雲と結婚。1949年に香港へ行き、「金峰」と改名。『葡萄仙子』など歌舞劇に出演、1962年にショウブラへ入ったのちは黄梅調で活躍。20年の間30ほどに出演し、歌舞劇に心血を注ぎました。黄梅調出演作は『鳳還巣』(1962)、『喬太守乱点鴛鴦譜』(1963)、『双鳳奇縁』(1963)、『蝴蝶盃』(1963)、『女秀才』(1966)。
【高立】
1924年南京生まれ、教員などを経て映画界へ。リーハンシャン監督作品『貂蝉』(1958)などの編劇で手腕を見せ、のちショウブラの名監督に。黄梅調で特に活躍し『鳳還巣』(1962)、『魚美人』(1964)、『魂断奈何天』(1965)、『女秀才』(1966)、『新陳三五娘』(1966)など。
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普段、包公劇はぜんぜん好みじゃなくて(男ばっかりで・・偏見?)、辛うじて偽包公の出てくる越劇、黄梅調『追魚/魚美人』くらいしか気に入らなかったのが、これは期待に反し面白かった!夢で冥界裁判、それが人界でも効果を発揮し悪人成敗・・これが包公案のよさなのねーと再認識しました。ラストがあっさりしていますが、今上帝にとって長年実母と思ってなついてきた女性が実は自分を利用し後宮での地位を築き、実母が新しく出てきた上に育ての母が縊死となっては、葛藤はないのか?そこも見たかったな。
高宝樹と欧陽莎菲は普段おばさん、お母さん役だけど、冒頭の懐妊シーンでは厚化粧で以外に普通、女現役!って感じで無理がない。熟女って感じでもあるがロリコン趣味の後宮より断然面白そう。高宝樹の悪役ぶりも見ていて気持ちが良い。