書虫で買った、2006年商各印書館発行のこの本。従来、俳優や製作人中心だった戯曲研究の中、
言語学的見地から新境地を開く事を目的に書かれています。京劇、崑劇、湖南の花鼓戯などから、私は初見の<さんずい+戸>劇、莆仙劇、それに戯曲の音韻研究を総括した論文を掲載。音韻というだけに、主に地元の方言と戯曲での発音の関連性、歴史的変化などについてでした。※左の写真は同時期に買った『20世紀中国戯劇学史研究』、これは難しすぎてお手上げでした・・未練がましく写真だけ掲載してみます。
【越劇と<山乗>州方言】
越劇は紹興酒や周恩来で有名な浙江省<山乗>州発祥で、20世紀初頭は「紹興文戯」などとも。男優中心でしたが上海へ移ったあと1942年に越劇改革が起こり、以降は女優優勢へ。『紅楼夢』『梁祝』の大ヒットを受け、映画化も盛んに。現在では各省に260以上の越劇団が有り、全国第二の劇です。
近年の上海越劇院(国営)の上演は普通話に近づいているとか。レポートとして往年の名作映画/上海越劇院/福建や浙江の越劇団の発音を比べた力作(※)や、ほか
「紹興文戯」時代の男優さん(88歳、99年当時)の発音を克明に記録したページもあり、ただただ感服。方言を使っている越劇が、独自の言葉を保つか普通話使用へ切り替わるのか・・・気になります!
※以下の4つ『紅楼夢』の発音が比較されています
a. 58年上海越劇院演出、徐玉蘭・王文娟主演の金字塔バージョン
b. 99年上海越劇院演出、銭惠麗・単仰萍主演の新版バージョン
c. 98年<山乗>州越劇団演出、主演は徐派小生・王派小旦
d. 98年福建芳華越劇団演出、主演は徐派・王派
【黄梅戯と安慶方言】
発祥は湖北省黄梅地方ですが、今では黄山で有名な安徽省安慶市が本場。全国五大劇の一つ。特徴は普通話を使う事でかなり異色です。乾隆年間から始まり、20世紀初頭には「黄梅調」とも。50年代は黄梅戯映画(※)黄金期で、全国区へ。当時は安慶方言もあったようですが、
文革の影響により普通話化、現在に至ります。普通話である事が黄梅戯ドラマの隆盛へとつながったのですが、著者は言語学の見地から警鐘を鳴らしていました。確かに黄梅戯はテレビドラマや映画化に熱心で、お店で探すと断然他より数が多い。港台でも『梁山伯と祝英台』(62)など、黄梅調映画がヒットしています。
※厳鳳英主演
『女附馬』『天仙配』『牛郎織女』。今でも黄梅戯3大伝統戯。