日本語版もたくさん出ている香港映画50-70年代の黄金期を支えたショウ・ブラザーズ(邵氏)出品作品。日本でも映画『西太后』で有名な
李翰林監督の作品で、時代劇が得意だという監督の真骨頂が見られます。そして何故か黄梅調映画が多いんですよね、この監督。つまりただの時代劇ではなく、唄ありの戯曲映画。なんてすばらしい監督だ。。
ここのブログで以前書いた
『真説チャイニーズ・ゴーストストーリー』や『金瓶梅』は日本語版も最近出ていて、ショウ・ブラザーズ作品自体が今香港で復刻されているらしいですね。時代劇・戯曲ファン、それもレトローな映画好きにはたまりません。個人的に、知っているスターがやる時代劇より、やっぱり知らない俳優さん(失礼)がやるレトロな雰囲気の時代劇の方が断然好きです。
あらすじ⇒
兵部尚書の程大人には、庶出の長女=ブスで性格悪、嫡出の次女=美人で善人の娘がいます。親友の息子で今は没落しした穆公子を見込んだ大人は、次女と結婚させようとしますが、側室で意地悪な長女の実母・程夫人は自分の娘にこそ穆公子を!と強硬に主張。もめている所へ南方への長征命令が下り、程大人はしぶしぶ従軍。次女と穆公子の婚礼をまかされた夫人はこれ幸い長女に夜這いを掛けさせ、それに呆れた穆公子は逃げ出します。
そうとも知らず式の準備は進み、夫人の陰謀により本来結婚するはずだった次女は参列も出来ず、長女は新娘の装いでゴキゲン。しかし式に現れたのはなんと長女を前から狙っていた皇族の朱公子。朱公子も美人の次女と結婚するため、逃げ出した穆公子の代わりに何食わぬ顔で花婿として現れます。洞房で被きを取って現れた「母夜叉」に、朱公子は愕然。長女の方も「穆公子だと思ったのに、なんでこんな不細工と」とお冠。
その後、朱公子や程家のある都は被災し、次女と長女家族は別々に程大人のいる軍陣へ逃げ込みます。そこでは目覚しい軍功をたてた穆公子もおり、単身逃げ延びた次女との縁談を進める程大人。穆公子は夜這いの一件を大人に打ち明け逃げようとしますが、穆公子が長女と次女を勘違いしている事に気づいた大人は気にしません。新婚の夜、花嫁と同衾しない花婿を心配した侍女や程大人、その同僚のおじさん達の取り成しで穆公子と次女は結ばれ、めでたしめでたし。
この「鳳還巣」というタイトルは
京劇の名旦・梅蘭芳が改作した後に定着したそうで、ほかに「陰陽樹」「玉配」とも。京劇紹介の本には「コメディ喜劇の傑作」とありますが、確かに抜群に面白いです!喜劇だけに丑っぽい演技がみんな上手くて(笑)、不細工で性格も悪い長女が可哀相なんだけど、本人が幸せそうなのでカラッとした笑いに満ちています。この作品は黄梅戯ですが、京劇を元にしたんでしょうか。丑な長女はマチャミを100倍不細工にした出っ歯な感じです。
その婿になる羽目になる朱公子は、皇族というだけでやはり不細工・ドンくさいタイプ。明石家さんまをさらに不細工にした感じ。長女と出っ歯なのが共通・・それも並みの出っ歯でなく、デフォルメされた原口あきまさの出っ歯みたいです。長女は結構気が強いので、気の弱い優柔不断な彼と意外にお似合いです。悪い意味じゃなくて、ハタから見てもなかなか幸せそう。長女の実母で次女の継母である側室の程夫人ですが、これまた典型的な悪役。でも夫の大人に叱責された時、「いいじゃないですか、最後は姉妹ともども相応しい相手と結婚できたんですから」と悪びれない図太さ、潔し!
次女と穆公子の初夜成功に奔走する程大人・元帥・周公公(宦官)のオヤジトリオのユーモラスさ・可愛さは素敵だし、次女のお付で何かと気のつく理想の侍女・梅香(典型的な侍女の名前・・・)や、名前は出てきませんがブス長女のお付でいろいろ笑わせてくれる、でも最後はいい奴なでぶでぶの侍女(ラストは彼女が窓枠に頭挟まれて終わり・・、どこまでもギャグ!)などと、脇役もいい味出してます。これは確かに
コメディ喜劇の傑作ですね。知らない人に黄梅戯薦める時は、まずこれを貸そうと思いました。