下記のような背景から、80年制作当時の紅学者(周汝昌とか・・)による
「失われた後40回」をドラマから拾ってみました。旧版ドラマは全36話、第30話の途中から原作第81回以降に突入。つまり6回放送分でドラマ独自の結末を展開。賈宝玉は物乞いとなり、史湘雲は娼妓に落とされるなど、現行120回本と大きく異なる悲惨な結末には賛否両論。抄家後、賈府の使用人が奴隷市にかけられるシーンがあり、林之孝(栄国府の番頭)を指して「いつも人を売買していたら、今度は自分が売られてるよ」というセリフがしゃれになりません。
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【第30話】
「大観園諸芳離散」 大観園の花 離散すること
・夏金桂が薛家へ輿入れし、香菱をいびり殺す。薛蟠逮捕により金桂は実家へ戻る。
・宝玉は追い出された芳官と四児に会い、屋敷での仕打に関して謝罪する。
・孫家から急かされ、迎春が追われるように嫁入り。宝玉は見送りに立ち会えず。
【第31話】
「家宅乱誤窃通霊」 宝玉の通霊 消えうせたこと
・賈芸が持ってきた、大観園の海棠が狂い咲きする。
・襲人が王夫人に提案し、宝玉の大観園退去と縁談推進が決まる。
・通霊宝玉が紛失し宝玉が病気になるが、雪の中の庭で王煕鳳により発見される。
・煕鳳の病は悪化し、一人では歩けないほど進行する。姑・刑夫人との不仲も進行。
【第32話】
「傷離別探春遠嫁」 悲しき別離 探春 遠方に嫁すること
・宝玉と宝釵が大観園から退去したこと、司棋が潘又安の死んだことが明らかに。
・和平のため探春が南安大妃の養女となり、東海国王に嫁す。趙氏は泣き崩れる。
・宝玉と黛玉はいよいよ相手こそと確信し、ますます親しくなり、襲人が焦る。
・迎春が帰省し、夫の暴力を賈母らに訴えるが、なすすべがない。
・衛若蘭は西部征服の戦に南安郡王とともに参戦するが、戦死する。
【第33話】
「惊噩耗黛玉離魂」 林黛玉 みまかうこと
・賈母が宝黛の結婚を決めるが、王夫人と襲人はそれを阻止しようと貴妃に注進する。
・紫鵑は宝黛の結婚を確実にしようと宝釵に力添えを依頼するが、断られてしまう。
・宝玉は賈政に連れられ遠方へ外出し、彼の留守中に黛玉は肺炎で亡くなる。
・史家としん家が抄家。湘雲は娼妓に落とされる。賈母には内密にされる。
・薛蟠が再び殺人を犯し、死刑が確定する。宝釵は才人資格応募剥奪。
・迎春が死ぬ。これは隠せないと、ついに賈母にも知らせる。
【第34話】
「強英雄鳳姐知命」 王煕鳳 天命を知ること
・黛玉の死で呆然とする宝玉だが、宝釵と結婚、しかし式では黛玉の幻影を見る。
・宝釵は夫を心配するが宝玉は上の空で、黛玉の棺を蘇州まで送る紫鵑を見送る。
・元春が死に賈府の政治的立場が弱化、賈雨村に忠順親王への取成しを依頼する。
・南安郡王や北静王を頼るが両者とも辺境警備、都は不仲の忠順親王が担当している。
・尤二姐に関する煕鳳の悪事が発覚し、離縁され巧姐とともに王家へ戻ることが決定。
・王仁によって巧姐は南省瓜州の妓楼に売られ、付添の小紅も売られるが、倪二が救助。
【第35話】
「大厦傾栄府末路」 栄国府 末路のこと
・賈母が亡くなる。同時に賈府が抄家にあい、屋敷に踏み込まれ親族は逮捕される。
・賈芸、小紅、劉ばばらの働きで獄中の煕鳳と宝玉が慰められる。賈蘭、賈環も入獄。
・林之考夫妻と平児は平安州の商人に買われ、賈芸と小紅は3人を取り戻しに行く。
・賈政は減刑され流罪となるが、この騒ぎで王夫人が亡くなる。
・獄中で鴛鴦が賈母に殉じ、縊死する。それを琥珀が悲しむ。
【第36話】
「白茫茫厚地天高」 宝玉 雪の中で出家のこと
・煕鳳は娘を末を劉ばばに託した後、病死。死体は野外に打ち捨てられる。
・賈芸の働きで出獄した宝玉は物乞いになり、黛玉の遺品を持ち彷徨う。
・劉ばばが妓楼に売られた巧姐を助け、道中、出家した惜春と出会うが、拒否される。
・放浪の末、宝玉は娼妓となった湘雲と対面。しかし身請けする資金も無く別離する。
・売られた宝釵を蒋玉函・花襲人夫妻が引き取る。宝玉は彼らの前から姿を消す。
・発狂した宝玉は雪の中を彷徨い、賈雨村逮捕をを目撃し、しんしいんの漢詩で終。
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【感想】
第34話「「強英雄鳳姐知命」と最終話「白茫茫厚地天高」は、脂評からか。ドラマ版では「叔嫂」が「姐弟」となっていたり、原作の文言を変えてある箇所がありますが、30-36話のタイトルはそれこそ紅学者の方達が考案したもの?第33話で「惊噩耗黛玉離魂」と
黛玉の死がタイトルになるあたり、このドラマ版らしいなと思います。原作よりもすっきりまとまり黛玉の扱いが大きく、金玉良縁の結婚後も宝釵と親しくなる暇もなく没落です。無常も前面に打ち出されているなあ・・・
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【失われた40回問題の背景】
紅楼夢の81話以降は曹雪芹でなく、後世の別人作です。成立後、80回写本で30年ほど読まれ、人気に注目した程偉元らにより80回以降が補足され出版されたのが雪芹没後50年。現行120回本に落ち着くまでの紆余曲折ですが、紅楼夢を映像化すると結末の処理が厄介。方法としては①120回本を忠実に再現、②120回本をベースに適度に短く改作、③120回本に倣わず曹雪芹の
「失われた後40(30?)回」を推測、の3つでしょうか。
写本には脂硯斎(曹雪芹の親戚)の評があり、失われた結末部分がうかがえ、紅学や読者の間で色々な推測されてきました。中でも120回本と異なるのは「
香菱が夏金桂に虐待され死ぬ」、「賈芸と小紅が結婚し、獄中の宝玉を救済する」など。後40回は込みいっていて映像化に向きませんし、たいていの地方劇やドラマなどは②ですが、珍しく③を採用したのが87年の旧版ドラマ。上記のように現行120回本とは全く違った結末です。