「優秀伝統名劇」と銘打たれ、62年には金采鳳(『紅楼夢』で煕鳳役)、姚水娟(30年代『越劇皇后』と呼ばれた名スター)出演でカラー映画化された作品です。
個人的には老旦や丑旦の活躍する希少で面白ーい演目だと思います。映画版と比べ舞台版はやはり話が簡略化され唱が中心でした。
【あらすじ】
新婦に片思いしていた従兄弟が新婚夫婦の仲を引き裂こうとして失敗する話。
両者の父母から召使から借り出され、最後は総出で大激論になりますが、一件落着。
第一場/慶寿・定親 お祝いの席で王玉林♂と李秀英♀の縁談が決まる。
第二場/ 秀英に片思いしていた母方従兄弟が縁談を邪魔する決意。
第三場/洞房 新婚の夜、従兄弟の策略にはまり夫婦は決裂。
第四場/二洞房 姑が新婚夫婦の関係修復をはかるが失敗。むしろ険悪に。
第五場/ ■宴 結婚後のしきたりの里帰りをめぐって、姑と息子が大喧嘩。
第六場/帰寧 妻の実家で不仲が母に露見。水袖など見ごたえアリ。
第七場/三盖衣 何とか婚家に戻った妻が仲直りを目指すが夫が断固拒否。
第八場/探女 婚家に妻の母が殴りこみ婿の不義理を問いただす。
第九場/夜帰 戦陣にいた妻の父が事の顛末を聞き舞い戻ってくる。
第十場/対書明冤 真相がわかり夫は謝るが、怒った妻は相手にせず実家へ戻る。
第十一場/送凰冠 状元となった夫が仲直りと鳳凰冠を妻に送ろうとし、駆け引き。
鳳凰冠は役人の妻に贈られる称号のようなもの。「今さな何よ」と受け取り拒否する妻に姑の強制もあって夫が土下座しやっと受け取ってもらえて円満解決です。
旧社会を描いた劇では、親が決めるために新婚夫婦の仲を心配する親御さんがよく出てきますが、結婚当日に初対面だからやっぱり気になるんでしょうね。夫は妾をとればいいけど他の男性はあぶれて妻は空房。姑の陸氏は嫌がる実子を嫁と閉じ込め、鍵までかけちゃいます。
舞台版の生録画のため、
観客の拍手がそのまま入って臨場感。でも字幕は台詞・唱とも入っておりまさにいいとこどりのVCD。大体、中国戯曲でベットといえば長椅子が多いのですが(普通の天蓋つき寝台だと観客に見えにくい)、新婚の夜・洞房でのシーンにはミニサイズの天蓋つき寝台が!!京劇の白蛇伝でも一度見ましたが、舞台に小さい寝台がちょこんとあると可愛い。全体的にすっきりして洗練されたセットでした。
孫媒婆の策略と言うのが、秀英→従兄弟への贋の恋文と愛情の証として碧玉の簪を洞房に落としておくというもの。王林はそれだけで「あの女は売女だ!」と信じ込み、勧められたお茶のお椀を落とすわ妻の里帰り中に離婚通知を送るわと強硬です。
ひたすら大人しい秀英にもいらつくけど、この勝手な男にも腹が立つ!この夫婦のために周囲のかいがいしい努力が・・・。まあ従兄弟が一番悪いんだけど。
【個人的好みによる紹介】
陸氏/陶鉆怡
夫の母、王家の姑。嫁と息子の不仲を解消するため奔走。気さくなおばさん。62年映画版では『紅楼夢』の賈母の周奎宝飾。コミカルな台詞と仕草中心で、考え事をして梁に頭をぶつけたり、椅子からこけたり、「阿林」と幼名で息子を呼びぶん殴る笑。彼女だけかなり上海語っぽい話し方(二人称が「你」でなく「ノン」)でらしさがよく出ています。
李夫人/陳馨琦
妻の母。松坂慶子のような感じで、陸氏がグレーががった紫など老婆色の服なのに対し鮮やかな青や赤など、女の色気現役という感じで貞淑な貴婦人。映画版は『越劇皇后』姚水娟の数少ない音源。唱が中心で叙情的、陸氏と好対照。でも娘の不当な扱いに怒る姿はかっこいい!
孫媒婆/張玉華
不自然な大きさのつけぼくろブサイクメイクで、明らかに丑!とわかる笑。お金にめがくらみ秀英の従兄弟の悪巧みに協力する、いかにも旧来の媒婆という感じの小悪人。出番はそれ程でもないが面白い。最後に成敗される姿は、最近めったにお目にかかれない。
王玉林/張宇峰、李秀英/樊婷婷
玉林は科挙準備中、そこへ秀英が嫁ぐ。玉林は相当ガンコ。水袖や唱など素晴らしいけれど、私の中で印象は薄い。張は陸派、樊は金派の女優さん。陸派とは陸錦花さんの派だと思うのですが、80年代にアメリカへ移住された方なので、そのまた弟子とかなんだろうか。
王裕/周勤、李延甫/金燁
それぞれ新郎新婦の父。この2人の発案であれよあれよと結婚が決まった。ジャケットの主演に上がっているので、ビッグネームなのでしょうか。しかし娘の事とはいえ公務(戦争)から戻ってくるのがスゴイな。
春香/孟麗敏、秋桂/袁麗、Y鬢枝尉/本団演員
実家から嫁入りについてきた、秀英の侍女。夫婦仲修復に借り出されっぱなし。しかし名無しの女中さん役が「本団演員」、切ない。春香が筆頭らしく衣装も他より豪華だった。
旧ブログ内の1962年電影版『碧玉簪』、金采凰主演のオリジナル